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闇の底から

第7章 トラップ?トリップ?


ふと立ち止まると山の上で、景色を一望できる位置にたどり着いていた。
すぅっと息を吸い込んで叫ぼうとしてやめた。
喉は大事にしなきゃいけない。
追い出されるのは時間の問題かもしれないけど今はまだ軽音部員だ。
かわりに旋律を紡ぎ出す。前奏をイメージして目を閉じる。口を開いた。


「じゃあ次はそこの丘を駆け上る。上では鬼ごっこな。はいよーいドンっ」
すでに旅館周りを20周走った後で息の上がったサッカー部員はヘロヘロになりながら丘の上にたどり着いた。
「しっ!声が聞こえる」
誰かが発した一言でその場がしんと静まり返った。

still I dream he'll come to me
That we will live the years together
But there are dreams that cannot be
And there are storms we cannot weather
ふと口からつい出たのは練習中でもなんでもない、夢やぶれて、だった。
歌声に自嘲が混じって独り善がりな歌い方になっているのは承知しているが止まらない。
so different from this hell I"m living
違う。私は地獄には住んでいない。
so different now from what it seemed
これは言えている。たった一人に振り向いて欲しくて、それが叶う状況にあると思ってた。
Now life has killed the dream I dreamed
私の夢はまだある。だから…だから…

柵に腕を預けて顔を埋めた。
どうにでもなれ。
もっとオトナな対応も出来たろうに

「おい、凜おまえだったのか。」
放っておいて、誰だか知らないけど。
何とかそう返すと頭に手が乗った。
「婚約は破談になった。」
その声にびっくりして顔を上げる。
「もっといい話が来たからだ…相楽家次期得宗との、な。」
ちょうど良かったはずの外気が一気に冷たい露を含んだ。今、何て言ったの…そう掠れた声しか出てこない。家でも常に着物をカッチリと隙なく着こなす伯母の顔。
ニヤリと笑う桜さん。凜姉と寄ってくる響。
「なんでそんなに宗馬は苦しそうなの?」
私までつられちゃうじゃない。
ね?といって頭をぽんぽん叩くとその手を取られた。
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