• テキストサイズ

闇の底から

第6章 葛藤


「おい、一回生の紅一点で口悪い男勝りの奴が金髪のバンドのボーカルだってよ」
「まじかよ、それ絶対見なきゃ損じゃね?」
特設ステージでパイプ椅子に座りながら輝の耳には凜を観に来た客が思いの外多いことに嘆息した。渉から逃げ回っていると聞いて安心していたのに、入部してバンドも同じと聞いたときに感じたえもいわれぬ痛みを輝は無かったものにした。
「相楽凜は侮れねえな、おい東條!オマエの教え子なんだろあの子?」
ちょうどステージに登場したFROZEN FRUITに目を向けながらサッカー部の同期に声をかけられる。
適当に返事をしていると
「お待たせしましたFROZEN FRUITです!みなさんお馴染みベースの東條渉 キーボード兼ボーカルの真島瑞季、ギターの北尾修也、ドラムの村瀬弥生、そして新入りの私はボーカルの相楽凜です。渉先輩、今日のおは朝占い良かったんですってね?階段踏み外したらしいですけど。」
トークが始まる。内向的な性格だと思っていたがやれば出来るらしい。
どっと笑い声がおこる。
「では一曲目っ!弥生先輩お願いしまーす」

渉と凜が視線を交わしながら歌声を重ねていく。
以前見たときはキーボードの子とハモりをしていたがここまでの一体感はなかった。
何がそうさせるのか。違いは何か。誰よりも渉に近い自分だからわかるのだろうか。

輝が思考の渦に飲み込まれている間に曲は変わっていた。恋する眼をした凜が遠い。
「本気で好きにならせてくれてありがとうございました!」
あの日の笑顔が忘れられなくて。抱きしめたい衝動を必死に抑えて余裕があるフリをした。自分を追って来た教え子、というパンチが効きすぎていて凜を一人の女性としては見れなかった。自分には玲という彼女もいる。

「どこが氷の女王だよ。結構かわいいじゃん、歌うまいし」
そういう声も聞こえる。当たり前だ。氷の女王と呼ばれる所以は彼女が普段肩肘を張って得た大事なバリアだ。
だけど凜、それを自分で壊してどうする?
そろそろ気付けよ、この鈍感。
渉の眼が熱を帯びていること。ブスといいつつ、あれは可愛いの代わりだということ。
そして一人じゃないということ。
少しは頼れよ。オレはお前の「先生」なんだから。

「ではラスト!聴いてください。」

今は凜だけを。
/ 56ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp