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闇の底から

第6章 葛藤


「んで、なんでこんなことになってるんですか瑞季先輩っ!!」
渉先輩率いるFROZEN FRUIT のバンド紹介を見て私は堪忍袋の尾を自ら断ち切った。

ー凍れる一回生の歌姫を新たな仲間に…(以下略)ー

歌姫だの女神だのみんな好き勝手言ってるけれど!バチが当たりそうだ。
「うん、オレもそれはやめとけよって忠告はしたよ。だってこいつ女じゃない」
「渉先輩ーー!分かってくれるんですねーー!!」
ガッチリと同志の抱擁を交わす二人を音声なしで見ているとただのバカップルだ。しかし一連の流れを飽きるほど目にする軽音楽部内部ではそんな恐れ多いことを口にする勇気のある人間はおらず、専らそのウワサは軽音楽部の外部でしか耳にしない。
「おうよ…バァカ!分かってねーわ離せブスッ!」
「聞き飽きたわ!ボキャブラリー貧しいってカワイソウ。言うてええことと悪いことがあるて習わんかったんか、こんのチャラい金髪!…まあアレですね。うん。先輩は残念ですよ、ホントに。」
「じゃあ残念同士仲良く『やですよ!ったくもう瑞季先輩助けて下さいよー』」
この桐桜の後輩はかなり面倒だ。歌声に惚れられてスカウトを受けたものの、色々と無自覚で無頓着だ。
でも憎めない。根は真面目だし、物事に対して真剣。一年生らしく程々に謙虚でたまに他のバンドの練習にも付き合っている。
彼女の歌声を聴いて、私は嫉妬した。

普段の悪戯っぽい目の光が活きる曲ではそのままに。
失恋系の歌では恋するいたいけな等身大の女の子に。
片想いの男さえも演じてしまうその声に。

高3の文化祭。たまたま暇だった私は高2の教室で創作映画を観ていた。
シンデレラと白雪姫が同時存在するハチャメチャな設定。細部は丁寧に作り込まれていた。
エンドロールまで立つのを忘れて魅入っていた。
一人一人がポーズを決めて去っていく。
名前のテロップが出て、シンデレラ役の正体がやっとわかった。
ーーー相楽 凜ーーー
ドレスを翻し、プリンセスらしくクルッとその場で一回転してそのあと観客に向かってバチンとウインクを極めて去っていったその姿に私は

ああ敵わないと思い知らされた。
そこまで彼女はきちんとその物語の中のお転婆シンデレラを貫き通していた。

この子は歌を通して自分を発信している。
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