• テキストサイズ

闇の底から

第5章 show timeー準備


明日から会合だということで京都まで移動する。彩葉の拠点である。20人近くも一気に集まったら怪しいということで、5人ずつ一組。後ほど報告会という形をとるらしい。ややこしいがどこか浮き足立つのを覚える。
アパートを出て部屋に鍵をかける。

「凜ーー!」
背後から抱きつかれた。合気道の技が染み付いた身体が反射で動く。ようやく離れた相手に凜は目を剥いた。
かれこれ2ヶ月私を軽音楽部に誘い続ける猛者二人組だった。
「頼むよ凜…その歌声が必要なんだ。」
どこからか私が軽音楽部に入ろうと思っていた、ということを聞きつけたらしい渉先輩だった。
「すんごい音痴ですけど、正気で仰ってるんですか?真島先輩?」
こちらはキーボード担当の2回生の真島瑞季さん。
「いや、ないない。だって相楽さん合唱コンクールでソロ歌っていたじゃない。」
苦し紛れの一言もアッサリ砕かれ、立ち往生する。

「いや、ほんと無理ですってば」
いう側から顎をホールドされて頬を撫でられる。渉先輩の顔が15㎝、10㎝と近づいてきて思わず目を閉じそうになるが必死に我慢する。
同じフロアの住人が出てきて、見世物になってしまっている。もうこれしかない…私は覚悟を決めた。

金髪を手で梳く。思ったよりも柔らかい。そのまま先輩の視線を絡め取る。
思わせぶりに囁く。
「何で私なんですか?歌上手い人いるでしょ、何処にでも。」
そのまま手を滑らせて首筋まで手を下ろす。
その行動にビックリしたのか顎のホールドが解けた。

これ幸いとダッシュで逃げる。遅刻するわけにはいかない、軽音楽部はその後だ!

取り残された渉は首に手を当てたまま固まっていた。
誘惑するような目付きも。
髪を梳いた長い指も。
綺麗なくちびるも。
掠れた声も。
目と耳を完全に支配して離してくれない。
「魔性…」計算され尽くされた動作にイライラするが、それよりもドキドキする。
放っておいても女子が勝手に寄ってくる自分が多分初めて本気になった相手だ。
凜が笑うのを誰よりも近い位置で見たい。
願うならこの腕から逃がしたくない。
知れば知るほど溺れる感覚に痺れる。
ベースを背負い直す。「行くよ瑞季。明後日こそ凜を引き入れる。絶対ね。」
困ったように、呆れたように笑う後輩を練習に引きずる。
動悸が止まらない。
/ 56ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp