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闇の底から

第5章 show timeー準備


「やあ、相楽凜」
どこか聞き覚えのある深みのある声に振り返る。
「あ、彩葉さん」
栗色ボクっ娘がそこにいた。黙っていればかなり可愛い。しばらく女子を見ていなかったせいか、目がチカチカする。
一枚の紙が差し出される。
「今覚えろ。スグに廃棄処分する。」
そう言って渡されるだけの価値がある書類だった。
内容を頭に叩き込む。彼女の目的は計り知れないし、計らないほうがいいような気もする…自分の身の為に。
「暑いし、私の部屋来ない?」お菓子くらい出すよ、と言うと彩葉はやっとふわりと笑った。

同時刻M大学南門に集う集団があった。
「今覚えろ、すぐに処分するからな。」
配られた紙が回収される。
「解散っ!」
皆示し合わせたように散り散りになる。

「意外と小綺麗にしているのだな」
彩葉の第一声に凜が笑う。「相楽の養父母に隙を見せないために、よ。得宗を狙ってるのは本家の子供の中にもたくさんいたからいつ蹴落とされるか分からないし。」
彩葉は凜の顔にハッとする。強くなった。数ヶ月会わないだけで綺麗になった。彼女を引き抜いたのは、S大学の一回生女子が彼女しかいなかったからであるがこの人選は間違えてなかった。自分と同じニオイのする人間に初めて出会った。
淹れてくれたアイスカフェラテも焼きあがったアップルパイも、冷えたバニラアイスも沁み渡る。
普段忙しい母は手作りのお菓子と無縁で彩葉は手作りというものの温かみを知らなかった。

「えっ、ちょっと彩葉さん。お口に合わなかった?」
凜が目の前でオロオロする。
「えっ、違っ…何でだろ。こんなに美味しいの初めて食べた。失恋したらこんな味するお菓子作れるの?」
凜の気圧が急降下した。
「ストーキングは犯罪で『叶わない両想いを初めて見たよ。』」
え…今なんて?この子両想いって言った。
「三神玲は味方じゃない。あいつと関わると僕たちは全員潰される。」
だから極力避けてくれ。頼む。
初めてのお願いと縋るような目を見て私は腹を決めた。

「彩葉さん、上目遣いやってみたよ」
ほぅ、とボクっ娘は平常営業を再開した。
「あれが有れば大丈夫だ。」
そう言ってカラカラと笑う近畿圏リーダーは本当に頼もしい。ついていこう、彼女に。

そのための協力なら投げ打っていいものもある。

女は強い。闇の底を見たことのある者は尚更。
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