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闇の底から

第1章 3月9日


記憶を辿るために日記を開く。横から覗き込む高津さんと玲さんを避けて読むものだからなかなかに読み辛い。

1月15日
センター試験二日前
今日は思いがけない人に駅前で逢った。新年会の帰りらしい。相変わらず悪戯っぽく光る眼に私はまた心を奪われたらしい。自分でも笑える話だ。体調管理としっかり寝ること、気負いすぎないこと、先生は漢文でパニックを起こしかけたこと、色々と私に吹き込んでくれた。やる気とか、やる気とか(笑)
どこを受けるの?と訊かれてS大前期と答えた時の驚きようは忘れない。私が現役で入れば一年だけ被ること、もしそうなら新歓で会うかもね、と言われた私は自分でも信じられない行動に出た。
敬礼とともに後輩になりに行きます宣言!!
やってしまった!!もう後戻りは出来ない!!前進あるのみ!!


1月18日 センター2日目終了
これはボーダーの9割はキツイかもしれない。取り敢えず何もかも忘れて寝よう。今日だけは。
手が止まって焦りかけた時に浮かぶ先生の笑顔に何度も救われた。それだけで十分。


1月19日 自己採点が事故採点
易化の国語が伸び悩み、難化の数学も今ひとつで、撃沈したのが生物と日本史。
傾斜配点で計算するとまだマシだけどS大前期は厳しい。というか医学科受験がまず厳しい。
模試など。含めた自己ベストなのがまた情けない。
ても泣くに泣けない。前を向こう。

少しだけ思い出した気がする。
足元のベッドに不意に東條先生が座る。ひっ、と情けない声を上げる私を見て玲さんはククッと笑う。
「あきら、あんた年下のカワイイ女の子誑かしてんじゃねーよ、浮気とはいい度胸してんな?!」
彼女の特権、ヤキモチを行使されて焦る東條先生を見ながら、誰にも気付かれないようにそうっとため息をついた。
「だからオレにすれば?って言ったのに」
高津さんの一言で顔に朱が昇る。初対面なのにどうして心の中にずかずかと土足で踏み込まれるのを許さなきゃいけないのだろうか。私の気持ちはそんなにも価値の低いものなのだろうか。
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