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闇の底から

第1章 3月9日


未だに激しい動悸と震える手を抑え込んでシャープペンシルを手に取る。しかし抑え込んだと思っているもののやはり身体は正直で、ノートに描く正四面体やベクトルは定規を使ってもぐちゃぐちゃだった。

先生はきっかり15分で起きた。何もなかったかのように、また何も知らないように、ぐーっと伸びをした。
くしゃっとなった髪と寝起きでまだ若干トロンとした切れ長の瞳、長い指…
目に入るすべての部位が私の心を掻き乱す。
イッタイナンナンデスカ コノカンジョウハ

「相楽さんはさ、」
呼びかけられて思考の世界から浮かび上がる私を下から覗き込んで先生は、話聞いてなかったでしょ?と笑った。ハッとしてノートを見ると証明終の文字が鎮座している。私の気持ちまで証明してくれたみたいだ。
「将来について考えたことある?」
まるで学校の先生ですね、と苦笑いしながらも描く目標と夢程度ならある。と答える。
続きを促す声に私は「小児科医になり、病気の子どもたちにこの先を捧げるつもりです。経験を積んで海外でも勉強したいし、その時に独り身なら国境なき医師団かAMDAに入って途上国の子どもたちに寄り添いたい、そう思ってます。」

先生は一瞬目を見開いて、その後すぐに笑顔を浮かべ、私の頭をわしゃわしゃと掻き回した。
「え、ちょっちょっ、ちょいまち先生!不意打ち勘弁してー!!」
「あ、やっと敬語崩れた。」
怪訝に思って思わず先生を見ると今度は吹き出した。
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