第1章 3月9日
3年前ー
私は中学三年生で高校進学時のコース振り分けで上位に入るために家庭教師なるものを依頼したという母親の一言で一日中憂鬱だった。
夜になり、家の門が開く音がして、リビングへの呼び出しがかかった。
はーい、と返事をして階下を覗いた瞬間、
私を見上げる両眼に吸い込まれて
忘れられない一目惚れをした。
「初めまして東條です。よろしくね、相楽さん。」
そして私の翻弄される日々が幕を開けた。
「せんせー!空間ベクトル無理!物理も無理助けてー!!」
help me!と叫ぶ私をなだめながら横に座る先生の横顔を盗み見る。教えるために問題を解いてもらっている間が私は一番好きだ。スラスラと的確に答えを導き出す鮮やかな手先に見惚れる。
二回生になって髪を染めてからますます輝かしく見えた。
「あー、ごめんちょっと休ませて」息も絶え絶えにペン
を置いた先生は英語の発表の準備に疲れ果てていたようで、机に突っ伏して寝てしまった。
明後日の方向を向かずに私に寝顔を向けた状態で寝ている先生の頭を撫でる。
「ん…」という声が聞こえて慌てて手を引っ込める。
イッタイワタシハナニヲシテイルノ
ナニヲシヨウトシタノ?
はっと我に返ると顔に熱が集まるのがよくわかる。