第1章 うしろの正面だぁれ?
夕方過ぎ。今日は二番隊と夜の見廻りがあるから、と仮眠を取ろうとしたら、土方さんに呼び止められた。
「何ですか?」といつも通りの笑顔で振り向くと、珍しく土方さんの顔は渋い顔をしている。
「総司。今晩の見廻りだがな」
「見廻りがどうかしましたか?」
「いや、見廻りに問題はない。問題はだ」
「さん、どうしたんですか!?」
思わず取り乱す。
とても大切なさんに何かあったのかと思うと、いても経ってもいられなくなる。
「安心しろ。あいつはどうもしてねぇよ。ただな、長州かそこらにつけ狙われてるらしいんだ」
「つけ狙われてる、ですか?」
「ああ。……まぁ永倉も一緒だから大丈夫だとは思うが、念のためお前も気にかけてやってくれ」
土方さんの言葉に、そう思えばお昼に話し込んでいたな、と思い出した。
本当、無用心ですよね。誰が見てるかも分からないのに、襖全開で大切な話をするなんて。
「安心してください、土方さん。さんには誰も触れさせませんから」
「そ、そうか?」
「ええ。例えそれが新撰組の隊士であったとしても、ね」
クスクス。喉を鳴らして笑うと、土方さんの息を呑む声がした。
顔を強張らせて、いつもの土方さんじゃないみたい。
「どうしました?土方さん。顔が怖いですよー?」
「……ッいや、何でもない。何があるか分からんから、お前も気をつけろよ」
「あははっ!大丈夫ですよ。私はそんなに弱くありませんから。それに……もう、終わりますよ」
そう。もう終わるんです。
苦しいことも哀しいことも、全部全部。今日に、ね。