第2章 足枷
急に襖の向こうが静かになる。
途端に、襖に何かがぶつかる音と衝撃。
おそらく、彼女が襖に額をつけたのだろう。
「いつの間にか…私は…。
こんなにも弱く、臆病になっていました。
自分でも怖いくらいに、半兵衛さまを好きになってしまっていました。
きっと…その為でしょう。
どうして私は、半兵衛さまに戦に行って欲しくないと、優しい方法で示せなかったのでしょうか。
弱さを、臆病さを、そのまま示せなかったのでしょうか。」
ごめんなさい、と声になっていない声で彼女が呟く。
小さな嗚咽がまた聞こえ始めた。
悲しみにくれたその嗚咽には、昨日の彼女のような狂気などは感じられなかった。
僕の背中の傷以上に、僕は彼女の心を傷つけたに違いない。
日の本統一を果たした途端に新たな戦を突きつけられた僕の様に、戦はないという言葉に安心した途端に同じく彼女だって新たな戦を突きつけられたのだ。
考えてみれば、その時の彼女の気持ちを僕は理解できるじゃないか。
怒鳴って突き放すのは、やり過ぎだった。
「怒鳴ってしまって申し訳なかったね。
あの時は、僕も感情的になり過ぎていたんだ。」
忌ま忌ましくさえ思えた彼女に対して、許そうという感情が芽生えてくる。
彼女は、ただ感情表現の仕方を間違えただけだ。
こんなにも、僕を好きでいてくれるのは事実だ。
「…ありがとう。
そんなにも僕のことを思ってくれて。」