第2章 足枷
驚いたが、話をしたかった僕には好都合だ。
襖を開けてやろうと、襖に近づく。
「開けないでください。」
予想外の言葉に立ち止まる。
その声は震えてはいたが、確かな意志が感じ取れた。
「どうしてだい?」
「…半兵衛さまのお顔を見たら、きっと私はまた取り乱してしまいます。
それだけは、避けたいのです。」
「……わかった。
襖越しで構わないよ。」
襖に近づいて、そっと耳をつけた。
小さく嗚咽が聞こえる。
…泣いているのか?
「お背中の傷…大変申し訳ありませんでした。」
やはり昨日、包帯を巻きに来たのは彼女だったのか。
「いいや、ちょっと切れていただけだ。
傷のことは、気にしなくていい。」
しばらくの沈黙ののち、再び声が聞こえた。
「自分でも、わからないのです。
どうして昨日、あんなことを申し上げたのか。
あんなことをしてしまったのか…。」
「僕にもわからない。
あんな君は、初めてだった。」
「…その言葉、藤にも言われました。」
「…藤?」
「昨夜、半兵衛さまに夕餉をお持ちした侍女の名です。」
確かに藤という名の彼女も言っていた。
わからない、と。
そして彼女まで、彼女がわからないという。
つまり…今の彼女を、誰もわからない。
「半兵衛さまが、戦に行ってしまうのが怖い。
また、半兵衛さまと離れるのが怖い。
ただひたすら、その一心でございました。」
「だけど、日の本統一の戦に僕が行く時は、あんなに取り乱さなかったじゃないか。」
「…その通りでございます。
奥州に、越後に、甲斐に…
半兵衛さまが戦に行かれるのをお見送りするのは、何度もしたことです。
その時も寂しかった、怖かったとはいえ、取り乱すことはございませんでした。」
「それならば、どうしてだい?」