第2章 足枷
もう襖を開けてもいいだろうか。
涙を拭ってやりたい。
抱きしめてやりたい。
ごめんね、と耳許で言ってやりたい。
「…開けても、いいかい?」
肯定を前提にして、僕は襖に手をかけた。
しかし返って来た答えは予想に反していた。
「開けないでくださいませ。どうか。」
「僕の顔を見たくないのかい?」
「そんなことはございません。
それどころか、会いたくてたまらないです。
でも、どうか、今日だけは…。」
彼女が折れる様子はなさそうだ。
そうだった、彼女は強情なんだ。
「わかったよ、開けない。」
「…ありがとうございます。」
互いに何も言わず、そのまま立ち尽くす。
なんとなく疲れて、僕は襖に寄りかかって座った。
しばらくして、彼女が向こうで座り込む音。
それからガタン、と襖が揺れる。
たぶん、彼女も襖に寄りかかって座ったのだろう。
「半兵衛さま。
お願いがあるのです。」
「なんだい?」
「昨日のことは、反省しています。
ですから、明日から、これまで通りに接して頂きたいのです。」
互いに、きっと昨日のことは記憶から消えないだろう。
それくらい、少なくとも僕には衝撃的なことだった。
無かったことには出来ない。
でも、無かったように振る舞うことは出来る。
そして何よりも、彼女は僕のことをとても好きでいてくれている。
それを忘れてはいけない。
「そうだね、そうしよう。
明日から、また僕付きの侍女として、そして僕の恋人としてそばにいて欲しい。」
「ありがとうございます。
半兵衛さま。」
少しだけ、彼女の声色が和らいだ。
「なんとしても、僕は秀吉を止める。
全力を尽くすから、僕を信じて欲しい。」
そう言うと、彼女はわかりました、と呟く。
改めて再確認する。
彼女は大切な人だと。