第4章 犠牲
「加賀の桜が…懐かしいのでございます。」
ここにも桜はあるじゃないか、そう言いかけて黙った。
きっと、彼女が加賀で見ていた桜は…
前田一家と、そして仲間の侍女たちと歓談しながら眺めた、暖かな桜だったのだろう。
「加賀の桜は…ここにはない。」
ぽつりと呟いた彼女の言葉に、胸が傷んだ。
彼女の言う桜、それは加賀で彼女が奪われた全てのものを比喩している。
初めて彼女の心に触れた気がした。
それと同時に、彼女の心にもっと触れたいと思った。
ただの同情だろうか?
「ここの桜は、嫌いかい?」
彼女がもう一度、桜に視線を戻す。
ぶわりと、彼女の瞳の中で桜が咲いた。
「僕は、ここの桜も捨てたものじゃないと思うよ。
加賀の桜を見たことはないけれど。」
僕達の中で、桜という隠語を通して会話が成立していた。
「ここの桜は……」
彼女が桜をじっと見つめる。