第4章 犠牲
彼女のことが気に食わないまま、しばらく月日が流れ、季節は春になった。
大坂城に植えられた桜の木が、まるで息を揃えたように一斉に咲いていた。
せわしなく動く僕も、その美しさに見とれてしまったことを覚えている。
秀吉と話し終えた僕が、自室に戻ろうと思った時。
彼女がぼうっとしながら廊下で桜を眺めていた。
大きな瞳に桃色の桜が映って、まるで彼女の瞳の中で桜が咲きこぼれているようだった。
「……あ、」
ようやく僕に気づいた彼女が、そっと目を細める。
しぶしぶといった感じで、僕に頭を下げた。
「…もう少し、自分の感情をうまく隠せないのかな。」
「……申しわけありませぬ。」
桜を見て束の間心の豊かさを取り戻して彼女に水をさしてしまったような気がして、僕は笑った。
「君も、そんなふうに穏やかな表情ができるんだね。」
「……。」
「さっきだよ。桜を見る君の表情は、とても穏やかだった。」