第4章 犠牲
「そうか…」
ひどく怯え、そしてどこか怒りを込めて僕達を見ていた、初めての日を思い出す。
最初は加賀の女を大坂城に入れることすら嫌だった。
ましてや慶次くん付きの侍女なんて。
同じくらいに彼女も嫌がっていたようだったが、彼女の顔立ちは秀吉が気に入るのには十分過ぎたし、それに彼女も僕達に頼る以外の方法はなかった。
しばらく、彼女は死んだような顔をしていた。
当然だろう。
主人も、家も、家族も、友も、全て奪われたのだから。
そして奪った張本人たちのもとに付くしか、自分が生き残る術が無かったのだから。
いっそ、一緒に殺されていた方が楽だったのではないか。
僕から見たら、そう思うことすらあった。
侍女たち皆が秀吉に従順に侍る中、彼女はそんなことしなかった。
いつでも秀吉を、敵意を宿した目で見ていた。
慶次くんそっくりだ、と思った。
形だけでも従えばいいのに、絶対に己を曲げない。
不器用で、素直で、僕とは正反対の人だなと。