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糸車 2

第4章 犠牲


「今すぐ出て行きたまえ、この大坂城を。」


一瞬にして部屋の中の空気が止まる。
ピクリとも動かないで、目を見開いた彼女。
まだ僕の言った言葉の意味がわからないのだろう。
無理もない。
僕だってついさっきまで、こんなこと言わなくてはならないと思わなかったさ。

「…半兵衛、様?」

震えた唇の隙間からこぼれた彼女の声は、頼りなく浮遊していた。
もう取り返せない言葉だ。

「もう一度言うよ。
ここから出て行きたまえ。」


…彼女を大坂城から追い出す。

これが僕に思いつく最善の策だった。
そうすることでしか、彼女の命は救えない。
どんな形であろうと、どんなに辛い思いをさせてしまおうと、彼女に生きて欲しい。
彼女の命を最優先したら、これしかなかった。

こうやってひどい言葉で突き放すことで、彼女が僕を憎んでしまえばいい。
僕を愛したことを悔やんで、未練などなくなればいい。
そうすれば、きっと新しい恋人が見つかる。
だって、こんなに誰かを愛せる人だ。
武人なんかじゃない、いつでも彼女のそばにいられる男と祝言でもあげればいい。






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