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糸車 2

第4章 犠牲


目の前の光景に思わず息を呑んだ。
彼女を壁に追いやって責め立てている秀吉。
真っ青な顔で、目を潤ませた彼女。
二人とも、見たことない顔をしていた。
女性に、ましてや僕の恋人に、なんてことを…!
そう秀吉に怒鳴りかけて、口をつぐんだ。

怒鳴ってはいけない。
もう、ダメなんだ。
無理やり落ち着いた雰囲気を装う。
平気なフリなんて、きっと僕なら楽にやれるさ。

「おや、君もここに来ていたのかい?」

彼女に向かって穏やかに微笑みかける。
それはあまりに完璧な作り笑顔だった。
そんな僕を見て、彼女が少しだけ安堵の表情を見せる。
その目は僕に助けを求めている。
そうやって僕を信頼しきった彼女に、胸が痛んだ。

「どうした、半兵衛。」

「秀吉に話があるんだ。
いいや、正確に言えばそこの侍女かな?」

そこの侍女。
彼女と恋人関係になってから、こんな呼び方をしたことは無い。
サッと色が変わった彼女の顔から、気持ちが読み取れる。
きっと、こんなことを言う僕にひどく動揺している。


僕だって、動揺しているさ。
未だに自分のこの考えに。
こんなことを言わなければならないことに。

「この侍女にか?なんだ。」

当然の秀吉の問い。
…答えなくてはならない。

この答えが、決定打。

……辛い、悲しい。
胸の鼓動が速さを増していく。
不安げな顔をした君に、こんなひどいことを言わなければならないなんて。

でも、もう、これしか。

…僕は君の事が、好きでたまらない。

そう心でつぶやいてから、僕は口を開いた。
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