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糸車 2

第3章 ゆびきり


「とりあえず、大丈夫さ。
現に今、こうやって起き上がっていられるんだからね。」

日常生活に支障があるわけじゃない。

彼女はしばらく腑に落ちない顔をしていた。
そうやって僕のことを案じてくれていることが嬉しい。

思わず彼女を抱きしめる。

こうやって抱きしめるのは、何日ぶりか。
漂ってくる髪の香りや、僕の手に伝わってくる温もり。
そっと抱きしめ返してくる細い腕。

たまらなくなって、そっと顎に手を添える。
少し指先に力を込めると、彼女が顔を上げて僕と目が合った。
真っ赤になって、彼女が目を逸らす。
微笑んで見せると、彼女も微笑んでくれた。


「…大好きだ。」

「私もです、半兵衛さ」

言い切る前に、唇を重ねる。
彼女は一瞬驚いたようだが、すぐに応えてくれた。

きっと、一昨日の彼女は本当の彼女じゃない。
彼女だって、疲れていたんだ。
あの時、僕だって少し取り乱していたのだから。

こんなに優しい口づけを交わせる彼女が、狂人なわけながない。
一昨日のことは、忘れよう。
忘れる努力なら、出来る。

心の中で決意すると同時に、唇を離した。

顔を見られまいとする彼女が、僕の胸に顔を埋める。


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