第3章 ゆびきり
「とりあえず、大丈夫さ。
現に今、こうやって起き上がっていられるんだからね。」
日常生活に支障があるわけじゃない。
彼女はしばらく腑に落ちない顔をしていた。
そうやって僕のことを案じてくれていることが嬉しい。
思わず彼女を抱きしめる。
こうやって抱きしめるのは、何日ぶりか。
漂ってくる髪の香りや、僕の手に伝わってくる温もり。
そっと抱きしめ返してくる細い腕。
たまらなくなって、そっと顎に手を添える。
少し指先に力を込めると、彼女が顔を上げて僕と目が合った。
真っ赤になって、彼女が目を逸らす。
微笑んで見せると、彼女も微笑んでくれた。
「…大好きだ。」
「私もです、半兵衛さ」
言い切る前に、唇を重ねる。
彼女は一瞬驚いたようだが、すぐに応えてくれた。
きっと、一昨日の彼女は本当の彼女じゃない。
彼女だって、疲れていたんだ。
あの時、僕だって少し取り乱していたのだから。
こんなに優しい口づけを交わせる彼女が、狂人なわけながない。
一昨日のことは、忘れよう。
忘れる努力なら、出来る。
心の中で決意すると同時に、唇を離した。
顔を見られまいとする彼女が、僕の胸に顔を埋める。