第35章 第一部 エピローグ/夕明かりの先へ
「ロヴィは、つようなったよ。……自分が思ってる以上に」
「俺は……強くなんか――」
アントーニョは再確認するように、どこか上の空で呟いた。
今にも泣きだしそうに顔を歪めるロヴィーノを、アントーニョはふわりと抱きしめる。
「……絶対、助けたる」
そう短く、アントーニョは告げた。
低い、確固たる意志を秘めた声だった。
ロヴィーノの瞳に、透明な雫がじわりと滲む。
ぎゅっとつむられた目の端から、その雫がひとすじ落ちた。
そういえば、こんなふうに兄が泣くのを見るのは、戻ってきてこれが初めてだな、とフェリシアーノは思った。
アントーニョが離れると、ロヴィーノはごしごしと乱暴に涙をぬぐう。
遠ざかる背中を、唇を噛んで見つめていた。
扉をあけ、アントーニョが振り向く。
「じゃ、あとはフェリちゃん頼むな」
「うん」
「……無茶すんじゃねーぞ」
「おう! まかしとき!」
いつもの調子でそう言って、扉がパタンと閉まった。
まるで、また明日普通に会えるような、そんな一日のおわりの挨拶のようだった。
でもふたりの間には、それでなんの過不足もなく、十分なのだ。
夕陽がまた少し沈み、室内の光量が減る。
心なしか、温度まで下がったように感じた。