第35章 第一部 エピローグ/夕明かりの先へ
ベッドのそばの窓から、オレンジ色の光線が幾筋も射しこむ。
夕陽の灯りが、静かな病室を満たしていた。
壁も、床も、空気さえも夕焼け色だった。
自分の手のひらに目を落とすと、同じ色をしていた。
フェリシアーノは、夕明かりを反射する時計を見上げる。
公子が“戻って”から、20分以上が経とうとしていた。
「そろそろ、行くな」
まるで用意していたように、アントーニョは口をひらいた。
その言葉に、ロヴィーノの瞳が揺れる。
「兄弟水入らずを邪魔したら悪いやん?」
「なにバカなこと言って――」
アントーニョが立ち上がる。
床を椅子が引きずって、嫌な音を立てた。
ロヴィーノがすがるような目つきで引きとめようとする。
その視線を正面から受けとめ、アントーニョは彼の頭にぽんと手を置いて、
「それに、これ以上ここにおると、泣いてしまうかもしれん」
「……!」
そう言って、泣き笑いのような表情を浮かべた。
自らの情けなさを自嘲するような、そんな顔だった。
ロヴィーノは返答につまる。
口をつぐみ、視線をさげてうつむいた。
ただおとなしく、頭上の手を好きなようにさせていた。
時計の秒針が動く音が、フェリシアーノの耳の端でかすかに鳴る。