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【ヘタリア】周波数0325【APH】

第34章 昏睡による覚醒より







私は来た道を戻っていた。

手配された車の中でひとり、ほとんど見えなくなった病院の方角をぼんやりと眺める。

『公子がここから離れたら、ハッキリするんじゃねぇか?』

提案というよりは、有無を言わせぬ要求だった。

なにか確信的な光が、ギルの瞳にはあった。

『別にかまわねぇよな?』

『え、えぇ……』

医師の、なにか言い損ねたような表情を思い出す。

患者がやっと意識を取り戻したというのに。

それは、主治医である彼にとって、喜ぶべきことではないのか?

携帯の電源をつける。

時刻は16時過ぎを示していた。

病室を出て、もうすぐ10分だろうか。

もし私が出ていき、ロヴィーノが再び昏睡に陥ったら――

もう目覚めないのではないか?

仮に、私が戻ることで目覚めたとして、それは“ロヴィーノは回復した”と言えるのか?

そんな思考を、おそらくあの場の皆が持ったのだろう。

反対する者はいなかった。

過ぎ去っていく街並みを、上の空で眺める。

思考を回すと、不安と嫌な予感が震えとなって現れそうだった。

だから私は、あえてなにも考えないでいた。

一番最初にラジオの声に応えたときは、こんなことになるなんて思いもしなかった。

こんなことには――……





「RRRRRR...」

「っ!」

突然手元の携帯が鳴り出す。

最後に見たときから、分針が30分近く動こうとしていた。

そんなにぼーっとしていたのか。

慌てて通話ボタンを押す。

「はっ、はい」

「戻っておいで」

フランシスだった。

やわらかく優しい声音が、希望を奈落へ突き落とす。

「……また眠ってしまった」

短く、簡潔にフランシスは言った。

それは、フランシスなりの気遣いなのだろう。

なにか返答しようと口をひらく。

でも、なにを言えばいいのかわからない。

喉がひりついていた。

妙に脳が冷えていた。

「――ロヴィ、なんで……っ――」

そばでアントーニョの嗚咽が聞こえる。

詳細を聞かずとも理解できた。理解できてしまった。

やっぱりか、そんな感想が、鈍く思考回路を過ぎていく。

「――戻ってください」

やっと声を捻り出し、運転手へ言う。

車はもう一度、間抜けみたいに来た道を辿り始めた。
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