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それでも世界は美しい

第1章 平穏


「ハルモニアさん、今日って時間ありますか?」
ある日、パメラの店での仕事もなく暇をもて余したハルモニアが机に座ってぼんやりとしていたところで、突然アローンがそう質問を寄越してきた。
「今日はもうずっと暇だよ」
「本当に?じゃあ、頼みたいことがあるんですけど……いいですか?」
普段頼み事などしないアローンが突然そんなことを言い出したために、一体頼み事とは何だろうかと知らず知らずのうちに身構えてしまう。
「ぼ、僕の絵のモデルになってくれませんか!?」
「は、え?モデル……?」
アローンも少し緊張していたのだろうか。
少し言い淀んだものの一息に放たれた言葉は思いの外勢いが良かった。
身構えていただけに、思いもしなかったアローンの「お願い」の内容に一瞬思考が追い付かなかったハルモニアはいささか間抜けな声で聞き返してしまった。
「ダメ……ですか?」
少し申し訳なさそうな、不安そうな表情をするアローンに激しく罪悪感を抱いたハルモニアはあわててそんなことはないと否定した。
「ほんとに?描いてくれるの?私でいいのかな……?」
「はい!ハルモニアさんが描きたいんです。」
ニコリという効果音が最も相応しいような笑顔でそう続けるアローンに対して、ハルモニアは断る術も理由も持っていなかった。



「あ、また動いた。動かないで」
「ご、ごめんなさい……」
幾度目かのアローンからの注意の声に小さく返すハルモニアはチラリとアローンの表情を伺った。
普段純粋な笑顔ばかり浮かべている少年が、見たこともないくらい真剣な表情で手元のスケッチブックに筆を走らせている。
しかし、その真剣な表情すらもいっそ痛いほどに純粋だ。
そんなことを思いながらじっとアローンを見ていると、不意にアローンが筆をおいた。
「?どうしたの?」
ハッとして疑問の声を上げれば、目の前に座る少年は申し訳なさそうな苦笑を浮かべていた。
「ごめんなさい、疲れてしまいましたか?つい夢中になっちゃったから……」
「え、いや疲れてなんかいないよ?」
なんで?と首を傾げると目の前の彼女は無意識だったのだろうかとアローンは苦笑したまま、その問いに答える。
「だって、何だか難しそうな顔して僕のこと見てるから……」
そういえば目の前の彼女は一瞬ポカンとした表情を浮かべた後、みるみるうちに赤くなっていった。

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