第1章 平穏
「それはそうと、ソレが紛らわしいモンだってことには変わりないからね。これでも着けておきな。仕事が終わったら返してくれればいいから」
そう言ってふわりと首に別のスカーフが巻かれる。
よくみればそれはパメラが着用する彼女のお気に入りだ。
さすがに悪いと断ろうとするハルモニアであったが、結局は口で勝てる訳もなかった。
「ただのアザなんだから恥ずかしがるものでもないのに……」
ハルモニアがそうこぼすとパメラがすかさず突っ込んでくる。彼女が言うには、自分が恥ずかしいとかそういう問題ではないらしい。
この日は結局パメラのスカーフを借りていたハルモニアであったが、仕事を終えた今髪を下ろしてスカーフをとる。
「ありがとうございました、パメラさん」
「いいっていいって。それよりも、少しでも明るいうちに帰れるように早く片付けちまおうか」
「そうだよ、ハルモニアちゃん位の年の娘があんまり遅い時間に出歩くのは危険だからね」
そうにっこりと笑ってくれたのは、パメラの夫であるトニーノだった。彼ら夫妻はこの店の二階に居をかまえている。
ハルモニアはと言えば、さほどの距離ではないとはいえ、ここから村まで歩かねばならず彼がいう通り確かに暗くなるにつれて危険であった。
「心配してくれて、ありがとうございます」
全ての片付けを終えて店を出たのはもう月が主役になりかけた頃だ。
片手には今日の分の給料がある。
それをしっかりと荷物にしまいこんで、ハルモニアはテンマやアローンのいる孤児院へと歩き出した。