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それでも世界は美しい

第4章 始動



「‥……!‥……‥……ぃ!」

なんだか遠くから声が聞こえてくる気がする。

いったい誰なのだろうか。


「おいってば!!」
「!!?」

今まで遠くから聞こえてきていた声が突然すぐ近くから聞こえ、思わず肩を揺らした。



「あ!やっと反応した」

揺れた肩を見たのか、嬉しさを滲ませた声が今度こそはっきりと認識できたことでハルモニアはその声の主を知ることができた。

「テ‥……‥……テン、マ…?」


混乱から目を泳がせるハルモニアに疑問をもったのか、顔を覗き込みながらどうしたのか問い掛けてくるその顔はまさしくテンマのものであった。


「?どーしたんだよ、ボーッとして」

そう問いかけてくるテンマの背の向こうでは、川の中ではしゃぐカロ達の姿があった。
視線を左へ向ければ、そこにはアローンが木に寄りかかって絵を描いていた。
それを確認して再びテンマへ顔を向ければ、テンマは依然として首をかしげたまま此方を見上げていた。

「ま!いーや。そんなことよりハルモニアも川で遊ぼうぜ!!」
「!え、あ、ちょっ‥……‥!?」

突然手を引かれた事で体勢を崩したハルモニアが慌てて声をあげたが、テンマは気にしていないとばかりに駆け出す。
前のめりになる体勢に転ぶまいと足を動かせば、自然とテンマの後を追って走る形になった。




‥……‥……あれ、テンマってこんなに背が小さかっただろうか…?





前を走るテンマの背中を見ている内に、ハルモニアの中でふと一つの違和感が浮かび上がってきた。
アローンはもう青年と言えるまでに背丈も伸びているというのに…


違和感が段々とはっきりとした形を表すにつれ、ハルモニアの心中には言い知れない不安と焦燥が渦巻いていく。

「テ、テンマ…」

恐る恐る名前を呼んでも、目の前の少年はまるで聞こえていないかのように振り返ることもしなければ、足を緩めることもしない。

「テンマ!‥……‥……テンマってば!!」
「‥……‥………」
「テンマ!!!」

どんなに大声を出してみても効果はない。いよいよ恐ろしくなったナマエは、テンマの手を引く。
が、少年の見た目にそぐわない強い力で引かれ、それすらもままならない。

ふと周りを見てみると、そこには自分達以外誰も見当たらず、今まで目にしていたはずの景色すらなくなっていた。




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