第4章 始動
「そう……ですか………」
ポツリと落とされた言葉は、童虎が想像するいずれの言葉とも違っていた。
驚きながらも目の前のハルモニアを見れば、彼女は自らの手元に視線を落としたままでその表情は伺うことができなかった。
「ありがとうございました……。言いにくいことっ、教えていただいて……、ただ………今は、少し一人に…っ、」
そこまで言って手を顔にもっていったハルモニアはそれ以上の言葉を発することはなく、ただ鼻をすする音と小さな嗚咽だけが部屋に響いていた。
その様子を見ながら、童虎は小さく顔を歪ませる。
おそらく、今彼女の心中では様々な感情が渦巻いているのだろう。
怒りに任せて怒鳴られても仕方のないことだと思っていたし、それでいいとも思っていた。
己が守れる場にいたにも関わらず、守れなかったのだから。
しかし、こうも静かに悲しまれると一番どうしてよいのかが分からなくなるものだと、ポツリと思う。
ましてや、謝られるなど想像の範疇を越えすぎている。
謝罪の言葉を言おうにも、それはただ傷を抉るだけの行為のような気がするし、励ますなどはもっての他だ。
いっそのこと罵倒でもしてくれればよかったとも思わなくもないが、それを口にすることもできない。
どうすべきかも分からずただハルモニアを見ていた童虎であったが、今自分に出来ることは彼女の要望に応えることだ。
そう結論付けてゆっくりと立ち上がった童虎は一度だけハルモニアを振りかえると、ゆっくりと部屋を出ていった。