第4章 始動
…………ここは?
ぼんやりとした頭と視界のまま、パチパチと瞬きをすれば意識が段々とはっきりしてくる。
同時に記憶も思い出され、ハルモニアは直後、弾けるようにして起き上がった。
ガタン
ドサッ
その瞬間すぐ近くから響いた、何かが倒れる音が静かな部屋に響き渡った。
それに驚き咄嗟に少しでも距離を置くようにとベッドの上でのけ反ると、背中が壁に当たり、ドカッと鈍い音が響いた。
音の原因を探ろうと目を向けても、暗い部屋に目が馴れていないのか良く見えない。
それに益々不安を感じてハルモニアが体の前に手繰り寄せた布団を握り締めた時、小さな呻き声が聞こえてきたために、その力を弛めた。
聞き覚えのある声だ。
記憶にあるその声の主を頭のなかに浮かべながら再び目を凝らせば、目が馴れてきたのか今度はぼんやりとではあるがその正体を確認することができた。
「……童虎さん………?」
恐る恐る名前を呼べばそれは正解であったようで、肯定の返答が返ってきた。
「ああ、なんだ………すみません、驚いてしまって」
「い、いや!」
倒れたのは恐らくイスだったのだろう。
再びベッドの隣に腰かけた童虎に驚いてしまったことを詫びると、彼は首を横にふった。
「その、こちらこそ驚かせてしまってすまなかった…。あまりにも突然起き上がったものだから……」
要するに、突然飛び起きたハルモニアに驚いた童虎が、思わずイスごとひっくり返ってしまったということらしかった。
「……どうしても、おヌシに一言謝っておきたくてな……」
気まずい沈黙を破ったのは童虎の方だ。
すまなかった、と頭を下げた童虎にハルモニアは少しの間固まったものの、すぐに首を横にふった。
「……私を無理矢理に連れてきたことに罪悪感を感じる必要なんてありませんよ?」
そう言ってハルモニアが笑って見せても、童虎の表情は固いままだ。
しばらく黙っていた童虎は、グッと手に力を込めるような動作をしてから、ゆっくりと口を開いた。
「………………おヌシに言わねばならんことが、ある」
言いにくそうに、しかし確かな口調で切り出した童虎は今まで床へ向けていた視線をハルモニアへと向けると、一息の後にそれを告げた。
「テンマもアローンも死んだ。……あの孤児院の子らも」