第4章 始動
どのくらいの時間が過ぎただろうか。
いくらか落ち着いてふと窓を見やれば、大きな月が窓からこちらを覗いていた。
まだ夜か、と再び視線を手元におとすと涙と鼻水で濡れた布団が目にはいってきて、思わず苦笑した。
ゆっくりとその跡をなぞったとき、ふとす童虎の存在を思い出した。
ベットサイドをみても、部屋を見渡しても、人影は存在しない。
そういえば、彼に向かって一人にして欲しいといった様なことを口走った気がする。
……申し訳ないことをしてしまった
いくら動揺し、混乱していたとはいえ、彼を追い出すようなことをしてしまったのだ。
辛いのが私だけなどあり得はしないのに……
おそらくこの場所まで運んでくれたのも彼だろう。
多少無理矢理であったとはいえ、そのお陰で今自分に命があるのは事実だ。
あのまま行っていたのなら、きっと今ごろは生きてなどいなかっただろう。
そこまで考えると、ふと脳裏にあの時の光景が浮かんできた。
まるで地面から生えるようにして伸びる建造物と、紅黒く、禍々しい気配をたたえた空。
まるで不吉を象徴するかのように空に飛びたつ無数の黒い影。
それを振り払うかのように頭を振ってもう一度窓をみれば、そこにはただ大きな月がいつもと同じように白く光輝いていた。
全てが夢だったらよかったのに…
そう思ってみたところで、現実は変わらない。
かえって重みが増していくだけだ。
パメラさんにトニーノさん‥……
アンナ、マリア、カロ、テンマ‥……‥……そしてアローン。
目を閉じてみれば、一人一人の顔が鮮明に思い出すことができた。