第3章 覚醒
「アテナ様に一刻も早くご報告しなければならん……」
「……うむ、そうじゃな……」
横を走るシオンの言葉に同意した童虎であったが、その胸中は複雑だった。
今回の事を報告するとなれば、必然的にアローンがハーデスであることに加えて、テンマの死も伝えなければなくなるだろう。
そうなれば、アテナにかかるであろう精神的な負担ははかり知れない。
しかし、事態はそうもいっていられない状況にまで発展してしまった。
甘いことは言ってはいられないと、童虎が前を見据えた時だった。
(!……あれは)
目を見開く彼の視線の先には、一つの人影があった。
その人物はどうやらこちらに向かって来ているようだが、その進行方向にあるものはハーデス城のみだ。
冥闘士かとも思ったが、冥衣を纏っていないからそうでもないらしい。
ではいったい誰が、と、目を凝らした童虎はその人物の正体を知り驚愕した。
「ハルモニアか!!」
「!…突然どうしたというのだ、童虎!」
思わずあげてしまった声に驚いたのか、非難めいた色を滲ませながら隣でシオンが疑問の声をあげた。
それに童虎が答えてやろうとシオンの方へ顔を向けようとした瞬間、彼の視界の隅でその話題の人物が
体制を崩すのが見えた。
あ、と思った時既に童虎は自らの腕で彼女を支えていた。
(童虎のやつ……、一体なんだというのだ!!)
突然、意味のわからない名前のようなものを叫んだかと思えば、次の瞬間には加速していなくなった友人に心中で不満を叫んだシオンは、それでも置いていくわけにもいかないと彼の向かった先へと進路をとった。
童虎の目的は以外と近くであったらしく、すぐにその姿を捉えることができた。
童虎の不審な行動の理由を問おうとシオンが彼に近づくと、そこには自分達以外の第三者が存在していることに気づいた。
よく見てみると、童虎に支えられているようだった。
いったいどうしてこのような状況になったのだろうか。
支えられている本人も状況がのみ込めていないらしく、ひたすら目をパチパチと瞬かせていた。