第3章 覚醒
「遅くなっちゃったな……」
手元の手紙に目をおとしてポツリと呟いた。
目的であったパメラ夫妻の娘には無事に会うことができた。
しかし、事情もあって取り敢えずは手紙だけ預かってきた訳であるが……。
ハルモニアの脳内に、出発前のアローンとのやり取りが浮かぶ。
早く帰れるようとこれでも急いではいたのだが、思っていたよりも大分時間をくってしまった。
途中で雨が降って地面が大分ぬかるんでしまったことも、原因としてあげられるだろう。
仕方のないこととは言えど、罪悪感は否めない。
アローンは優しい少年だ。きっと、しょうがないなぁと苦笑を浮かべながら許してくれるのだろう。
容易に想像できる光景に無意識のうちに笑みが浮かぶ。
とにかく、自分にできることは一刻も早く帰れるように努力をすることだと、ハルモニアは顔をあげると、歩みを再開させた。
今日中にはきっとつけるだろうと気を取り直して疲れた足を前へ前へと出していく。
流石にほぼ休まずに歩いているようなものだから、足にたまった疲労は相当のものであるだろう。
今までの長旅で今以上の距離を歩いたこともあるのだろうが、これほど疲労を感じたのは初めてだ。
これほど疲れるまでに急いでいたという事実に気づき、ああ、自分も早く帰りたいと思っているのだと改めて思った。
(ああ、そういえば……)
そこでふと、自分の中にある「帰る」という概念に気づく。
今までその様な概念を抱いたことは無かったが、それが気付くと胸の内にあった。
思えば、孤児院をでてから今まで自分の心に常に彼らがいた。そして、彼らを大切だと思う自分が。
再び旅に出るという選択肢はもうかつてのような効力を失っていた。
この先どれだけたっても、自分が「帰る」場所はあの場所でありたいと、そう思ってしまうほどに彼らのいる孤児院を大切な場所だと認識してしまっていた。
一人でいるという状況に無性に寂しさを感じる今になって、あの時再び旅に出るという選択をしなかった自分の本心に気付く。
あの時……孤児院に残ることを選択したのは、きっとアローンが心配だと思ったからだけではない。
いや、きっとそれ以上に、自分が彼らと離れたくないと思っていたのだ。
ただ、それがわからなかっただけで……。
不思議と軽く感じられるようになった足で、ハルモニアは孤児院を目指した。
