第3章 覚醒
「行かないのですか?」
すぐに答えることのないアローンに近づいた彼はそっとアローンの背に手を添えて、もう一方の手で前に続く回廊を指し示した。
「どうされたのです?この先に……貴方にとっての救いがあるのですよ?」
神父の言葉は、絶望し罪の意識に苛まれるアローンにとってどこまでも甘い。
頭のどこかで、行ってはいけないと警鐘がなっていても、それすらも聞き入れられないほどに、アローンはその言葉に魅せられてしまった。
絶望に囚われた心が逃げ場を求めて軋んだ時、もはやそれをはね除けることはできない。
(………僕はっ、…………救われたいよ…っ!!!)
心内で叫ぶのと同時に、頭の中で一層大きくなる警鐘を振り払うようにアローンは駆け出した。ただひたすらに救いを求めて………。
絵のもとに辿り着いたアローンは一呼吸おいた後に一気に絵を覆い隠すカーテンを開け………目を見開いた。
そこにあったのは聖人の絵などではなく、禍々しいと言うべき絵画であった。
しかし、アローンが見つめるのはその中心………亡者達にすがられる人物である。
(どうして………、僕に似ている………?)
食い入るように絵から目を離せないでいたアローンの後ろに現れた神父がアローンの横にしゃがみこむ。
「何を悲しむことがあるのです?これこそまさに救いの絵。………ほら、ここにも救われた者達が………」
そういって絵の方を指し示す神父の手を辿って再び絵を見ると、そこにはある光景が広がっていた。
自分達の育った孤児院。
その中にはアンナ、マリア、カロが床に倒れ伏していた。口の端から血をながし、光を失なった瞳が、彼らの生の終わりを告げている。
何が起こったか分からないといった様子で呆然と彼らを見つめるアローンに、神父はその答えを与えるべく口を開いた。
「三日前、彼らの絵を描いたのでしょう?………愛情を込めて………」
トドメを刺すか如く放たれた言葉はアローンを絶望の淵へ叩き落とすには充分なものだった。
もはや意識されずに放たれた慟哭とともに、軋んでいた心が一際大きく音をたてる。
その瞬間アローンの瞳からは涙が溢れだした。
「僕が……絵を、描いたからぁっ……!!!」
大聖堂には彼の悲痛な声が響き渡ったが、神父の顔に浮かぶのは同情などではなく薄い笑み。
そして、彼は更なる甘言を口にした。
