第1章 平穏
ハルモニアがパンに刃をいれようとしたとき皆が戻ってきた。
「あれ?」
普段ならば戻ってくる頃には準備が整っているはずの机ががらんとしていたからだろう。
カロがポツリと疑問の声をもらした。育ち盛りの子供であるのに満足に食べることのできない状況だ。食事の時間が待ち遠しいのだろうと微笑ましく思いながら今準備してるところだと言えば
「何か手伝おうか?」
そう聞いてくれたのはアンナ。彼女はお転婆だが何かと面倒見が良く、そのため時々こうして手伝ってくれる。
「ありがとう。じゃあそのお鍋に入ってるスープを取り分けて運んでくれる?熱いから気を付けてね?」
「はーい」
そう返事をして手伝いをしてくれるアンナに再びお礼をいって自分も視線を手元におとす。
今日は自分が町で働くお店から餞別として少しの焼菓子を頂いたから、何時もよりちょこっと豪華になるだろう。
喜んでくれるだろうかと内心少しワクワクしながらパンを切っていく。
切ったパンをバケットに入れて皆の所へ持っていくと皆が待ちきれないといった様子で座っていた。
机にはもうスープが揃っていて、マリアも手伝ってくれたのだとわかった。彼女にもお礼をいってパンの入ったバケットを机におけば、すぐに伸びてくる手がさっそくパンを一切れさらっていった。
それを合図にして一斉に食事が始まるいつもの光景に、祈りも何もないなと苦笑しながらも、自分がこんな時間が嫌いではないことを彼女は知っている。
賑やかな昼食は食料の少なさもあいまって直ぐに終わる。しかし、今日は小さな小さなサプライズがある。
「ねえ皆、今日は特別にデザートがあるんだけど、」「まじ!?やったぁーー」
またもや言葉を遮るテンマに一瞬呆れるも、その嬉しそうな様子にそれはすぐに笑みに変わってしまう。
「まっててね、すぐ持ってくるから……本当に量は少なくて申し訳ないんだけれど」
そう言って運ばれてきた小さなバケットには丁度人数分の小さな焼菓子が。
「甘くて美味しいよ」
「ほんとか?ちょっと小せぇけど、いっただっきまーす」
「あ!……もうテンマったら、そんなに一口で食べちゃったら勿体ないだろ?」
「うまい!」
アローンの忠告など耳にも入ってない様子でテンマは焼菓子を喜んでくれた。
自分で作ったものなどではないが、人が喜ぶ顔は何よりも自分を幸せにしてくれるのだと、頬を緩める皆を見ていた。
