第1章 平穏
「アローン、怪我してるじゃない!」
指先に付着した血に顔を青ざめさせたハルモニアは、すぐに立ち上がると奥から消毒液と包帯を持ってきた。
それに慌てたのはアローンだ。
「そ、そんな大きな怪我じゃありませんから!そんな高級なもの使わなくても大丈夫です!」
「こういうときに使わないでいつ使うって言うの?無くなったら私が買えばいいんだから。」
「で、でも……っ!」
「染みる?ああ、でももう血はほとんど止まってるから包帯はいらないか」
ごめんねと言いつつ傷を消毒したハルモニアは満足そうに笑っていたが、アローンはなんだか申し訳なさそうな顔をしていた。
「ん、これでよし。二人とも手を洗ってきて?他の皆もね。お昼にしよう?」
ハルモニアがそういえば、テンマは誰よりも元気に駆け出し、今までのずっと二人の様子を見ていた三人もそれに続いてかけていく。
そんな彼らを見送ったハルモニアがふと後ろを見れば、いまだにアローンが眉をひそめていた。
「?どうしたの?早く洗ってきな?」
そう言ってもうつむくだけで一向に向かう気配がない。
「もしかして……まだ消毒液のこと気にしてる?高級品だからって?」
コクリと小さく頷くアローンにハルモニアは小さく笑みを浮かべたまま、目線を会わせるためにしゃがむ。
「消毒液なんて、使ってなんぼの物でしょ?それに、傷も小さかったからほとんど使わなかった。ほら、全然量変わってないでしょ?アローンの気持ちもわかるけど遠慮しすぎ」
そう言いながら薬瓶を揺らしていたずらっ子のように笑うハルモニアをアローンはしばらく見ていたがやがて破顔して大きく頷いた。
「はい!ありがとうございます、ハルモニアさん」
そう言ってテンマたちの向かった方に駆け出したアローンの背中を見送って、ハルモニアは昼食の準備に取り掛かった。