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それでも世界は美しい

第3章 覚醒



出掛けるための荷物の確認を終えて夜着に着替えたハルモニアがそろそろ寝ようかとベッドに入った時だった。

扉を控えめにノックする音と共に、入ってもいいかとたずねる小さな声が耳に届いて、ハルモニアは上体を起こした。

「アローン…?」
「うん。ちょっと……いいかな?」
「うん……開いてるから、どうぞ」

そう言うと扉がそっとあいて、アローンが入ってきた。
アローンは、ベッドから一定の距離を保った場所で立ち止まり、ずっと床を見つめたまま黙っている。

「えっと………ほ、他の皆は?」
「もう眠ってるよ」

続く沈黙に耐えきれずに、ハルモニアが口を開いた。
質問には答えたものの、一向に顔をあげる気配がないアローンに戸惑う。
再び訪れた沈黙を破ったのは、今度はアローンであった。

「昼間は………ごめんなさい…ずっと謝りたくて」

突然おとされた謝罪の言葉にハルモニアは驚いて目を見開いたが、慌てて否定する

「!そんな…私こそごめんなさい。お節介だったよね」
「ううん。」

そう首を振って笑うアローンは、いつものアローンだ。
それに安堵して笑みを浮かべたハルモニアはしかし、そのまま出ていく気配のないアローンに疑問符をうかべる。
てっきり話は終わりだと思っていた彼女にとって、彼の行動は不自然なものだった。

出ていくどころか近づいてきたアローンに首をかしげた時。
ハラリ、と、眼前を金糸が舞ってアローンの姿が視界から消えた。
同時に体に軽い圧迫感を感じてようやく自分がアローンの腕の中に収まってしまっている事に気づいて体を硬直させたが、次の瞬間アローンからこぼされた呟きに体の力を抜いた。

「できるだけ、早く帰ってきて……」
「!………うん」
「一週間とか、長いよ………」
「そうかな」
「うん。長い……本当は凄く不安なんだ」
「………うん」
「僕が………ハルモニアと離れるのが怖い。ただの我儘だってわかってるけど………早く帰ってきて欲しいって思う……」
「……うん」
「怪我とかしないで」
「大丈夫だよ」
「無理もしないで」
「……うん」
「………でも……早く帰ってきて」
「難しい注文だね………でも、そうだね。私も早く帰ってきたいから」
「うん。約束」
「約束」


アローンの言葉に頷きながら、ほぼ意味を持たないような会話をぽつりぽつりと続けていたのだった。


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