第3章 覚醒
食堂の中、ハルモニアは額に手を当ててうつむいていた。
走り去るアローンを追いかけようとして出した足は、彼の拒絶の言葉が思い出されて止まってしまった。アローンの拒絶の言葉をはねのけてまで追いかけることは、どうしてもハルモニアにはできなかったのである。
(よりによって………今日は大事な話があったのに…)
言いにくくなったな、と重い心でため息をはいた。
「えぇっ!!?ここを出ていく!!?」
夜、孤児院にそんな叫びがこだました。
「いや、出ていくんじゃなくて…しばらく帰ってこれないってこと。………たぶん、一週間くらい…」
「どうして?」
椅子を倒す勢いで立ち上がったアンナに慌てて訂正を入れると、横からマリアがその理由をたずねてきた。
「実はね。私が町のお店で働かせてもらってることは知ってる?……そのお店の人でトニーノさんっていう人がいるんだけど、ついこの間倒れてしまって……それで、その人の娘さんがここから二つほど離れた町で暮らしているらしいのだけど、彼女にそれを報せに行くの。………行ったことはないからどれだけかかるか正直分からないけど、多分一週間くらい………だと、思う」
そこまで話してアンナを見れば、彼女は一つ頷いてくれた
「ハルモニアの言いたいことはわかったわ!ハルモニアがいない間は私たちでちゃんとやるわ。アローンだっているし。……アローンもいいでしょ?」
「うん。そうだね」
胸を張って頼もしく宣言したアンナにアローンも苦笑気味に同意する。マリアとカロもそれに続いて了承してくれた。
「……みんな、ありがとう。明日の早朝に出るから、しばらくの間よろしくね」
「任せて。あ、出掛けるときは言ってよね?黙って出ていったら怒るから!」
「ええ?そんな。寝ててもいいのに」
「だめ!ちゃんと見送りたいんだから。じゃ、私たちは明日早起きできるようにもう寝るわ。……絶対だからね!?」
そう言いきって、彼女はマリアとカロ、アローンと共に寝室へと入っていってしまった。
わざわざ見送ると張り切ってくれた皆に胸が温かくなるのを感じながら、ハルモニアも自分の寝室へと入っていった。