第3章 覚醒
「アローン?何して……あれ、ハルモニア?」
ガチャリと扉が開かれた音が聞こえてきたため、アローンはゆっくりと体を起こす。
入ってきたのはアンナだった。
「うん。ハルモニアが寝ちゃったから寝かせてたんだ」
「本当だ…よく寝てるわね」
「騒いで起こさないでよ?」
「そんな事をしないわよ、もう!」
プリプリと怒るアンナに笑いながらアローンは絵の道具にてを伸ばして手入れの続きを再開した。
「アローンってさ、最近ますますハルモニアにベッタリになってない?」
「そうかな?そんなことないと思うけど」
「いーや!絶対になってるわよ。ハルモニアのこと好きだったりしてー」
ニヤニヤと笑いながら茶化してくるアンナに、またか、とアローンは一つため息をついた。
アンナとマリアは時たまこうしてアローンをからかってくる。
「もう。またそれ?だから違うって言ってるじゃないか」
「えー、ホントに?」
「ホントに」
そう言って苦笑をもらすアローンにアンナは、またはぐらかされちゃったー、と言いながら寝室を出ていった。
「全く……どうして女の子はそういう話が好きなのかな?」
誰に向けるでもなく呟やいて、目を伏せる。
アンナ達の言うような好き、だなんてそんな感情であるはずなどない。ただ、彼女が側にいると、日々苛まれる不安を忘れることができる。だから無意識に一緒にいることを求めてしまう。ただ、それだけ。
彼女はきっと気付いてる。自分が何かしらの不安を抱えていることを。だからこそ、こうして側にいることを許してくれるのだろう。
もし、もしも。彼女がいなかったら………?
そう考えて思わず手に力がこもり、筆先をグシャリと乱す。ああ、まただ。と慌てることもなく乱れた筆先を再び整えていく。
それを想像する度繰り返されてきたことだ。今更慌てることはしない。
彼女がいなかったらなんて、そんな想像したくもない。もしかしたら、今自分が感じる以上の不安にさらされて押し潰されてしまっていたかもしれないのだから。
そこまで考えて、ますます彼女から離れられないと思うのもいつものこと。
だから違うのだ。
自分のこれはただの依存。
好きだなんて………
「………好き、だなんて……………」
苦しげに吐き出された言葉は誰に聞かれることもなく消えていった。