第2章 胎動
朝、ハルモニアは訪れた童虎と共にテンマ達を集めて昨日の話をした。
案の定、テンマは行くことを選んだ。
童虎はそれに頷いてみせると、アローン達を見渡し、最後にハルモニアを見た。
その目が本当にいいのだな?と問いかけているのだと感じ取ったハルモニアは彼に向かって一つ頷く。
「……では、テンマよ。昼頃には此処を発つ。それまでに準備を整えておいてくれ」
昼頃にまた来ると言って出ていった童虎を見送ったハルモニアが再び孤児院に入ると、アローンがテンマをモデルに絵を描こうとしているところだった。
てっきり落ち込んでいると思っていたハルモニアはそれに面食らってしまったが、今だけは二人にしておこうと思い、テンマの旅の準備を始めた。
テンマの私物はほとんどなく、数着の服程度しか見当たらなかった。
それらを小さな袋に詰め、余ったスペースに道中で食べるようにと作った簡単なサンドイッチの様なものを入れた。
キュッと袋の紐を締めて、ふと二人の方を見やるとちょうどテンマがモデルに飽きはじめた頃だった。
それに対して、絵の完成はテンマが帰ってきてからにすると公言したアローンは、涙を堪えきれなくなった様子で涙を流していた。
その様子を見ているうちに自分の目にも涙が浮かんできたハルモニアは、このままではいけないのだと涙を拭った。
「じゃ、俺もういくよ。」
そう言って立ち上がったテンマに続き、皆で外に出ると、壁に寄りかかった童虎がもういいのか?と聞いてくる。
「おう!」
元気に返したテンマに頷いた童虎がアローンを見ると、その瞳の奥に得体の知れない何かを感じて思わず目を見張ってしまった。しかしそれは一瞬で、後はただどこまでも澄んだ瞳があるだけ。気のせいか、と童虎は疑った事を隠すように笠で目元を隠した。
「では、行くとするか?テンマ!」
「おう!皆、俺ぜってーアテナの聖闘士になって帰ってくるからな!」
そう言って振り向くことなく去っていく二人の背中をハルモニア達は見えなくなるまで見送り続けた。