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それでも世界は美しい

第2章 胎動



「……私からは何とも言えません。でも、童虎さんが言うことに嘘が無いことは分かります……。だから、後はテンマの意思に任せたいと思います」

暫くの沈黙の後に口から出た言葉はそれだった
決して結論を急ぐことはせず、ただひたすらハルモニアの言葉を待ってくれた童虎に内心で感謝しつつ、ゆっくりと言葉を紡いだ

「感謝する。……では、また明日伺おう。出来るだけ早いに越したことはない…辛い決断をさせたこと、すまなかった。」
「そんなことはありません。……テンマも、他の子供達だって、何時までもここに居られる訳ではありません……ここを巣立つのに私が反対なんて、出来るはずもありませんから………」

そう言って微笑んだ彼女を見て、童虎は少し顔を歪めた
笑ってはいるが、痛々しい影は消えていない。シジフォスが未だにアテナを連れてきたことを心に引き摺っている事をなんとなく勘づいていた童虎は、こういうことか、と思った

「童虎さんがそんな顔しないでください。私は、確かに別れは辛いし、正直悲しくもあります………でも、あなたには感謝もしているんですよ?」
「!……感謝?」
「はい……。ここで、このメンバーで何時までも暮らしていけるのが、きっと理想だったのでしょうね……でも、今回のお話で思ったんです。それはただ立ち止まってるだけなんだって……。各々が自分の道を歩むために、いずれは来る別れです。………これは、私個人の勝手な思いですけど……テンマを引き取ってくださる人が、貴方のように実直で頼りがいのある方で良かったと。……そう思います」

今までの沈痛な面持ちから優しげな顔で心内を吐露した彼女に思わず頬を赤らめた童虎の胸中からは、先程までの凝りはキレイに消え失せていた
そこでふと疑問を感じ、首をかしげる

「おぬしは、テンマが儂に着いてくると決まってる様な事を言うのじゃな?」

その問いかけに、キョトンとした彼女は次にクスリと笑って答える

「フフッ、きっと行きますよ。テンマは」



「では、また明日の朝に伺おう」

そう言葉を交わして孤児院を出た童虎は、少し行って一度だけ孤児院を振りかえった

もしも、彼女の様な人がシジフォスの時もいたのなら、少しは彼の心の荷はおりていたのだろうか、と、思いながら……



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