第2章 胎動
「…おぬしは……テンマ、というのか?その少年の身内か?」
「…いいえ、テンマは私が今身をおかせて頂いている孤児院の子供です」
「孤児院の……。よし、ではそこまで送ろう。テンマが助けようとした者達も心配しているじゃろうし、何時までもここにおるわけにもいくまい?」
そう言ってテンマを抱き上げた童虎が、案内してくれと視線で寄越すのを了解したハルモニアは、孤児院の方まで歩きだした
「ここです」
「うむ。すまんが、テンマを預かってくれるか?着替えてからまた来るが…あまりこの装いで人目に触れたくはないのでな…すぐに戻ってくる。」
そう言ってテンマをハルモニアに預けた彼は、瞬き一つする間に消え去っていた
それに驚いたハルモニアであったが、彼が只人ではないことをこの短期間で承知していた彼女にとっては然程のことではなかった
もっとも、いきなりそんなものを見せつけられていたのならば、悲鳴の一つや二つあげていたのであろうが……
頭を軽く降って、ハルモニアが孤児院へと体を向きなおして扉を開けると、中から子供達が走り出てきた
「テンマ!ハルモニア!テンマは無事なの?」
コクリとその返事にうなずいて無事であることを伝え、アローンにテンマを着替えさせてくれるかと聞けば、彼は大きく頷いてくれた
「ごめんね?アローンにしか頼めないから……熱もあるのに……」
「ううん?大丈夫だよ?熱はもうないし、体調も悪くないんだ」
そう笑うアローンの顔色はその言葉が真実であることを裏付けていたため、ハルモニアはテンマをアローンに任せることにし、自分も着替えるために管理人室へ入っていった
濡れた服を脱いだハルモニアは、ふと先ほどの青年のことを思い出した
道中、自分がアテナの聖闘士とやらであることを話してくれた彼は、同時に小宇宙とやらの事も教えてくれた。それがテンマにもあるということを……
また来ると言っていた彼の顔を思い出して、無意識に胸に手をやった
(なにか……よくない予感がする)
着替え終わって髪も拭いたハルモニアが寝室へ顔を覗かせると、すっかり着替えさせられたテンマが横になるベッドに頭を乗せて眠るアローン達の姿があった
考え事をしていたせいか、着替えに随分時間をかけてしまっていたと反省しながら、ハルモニアは彼らを一人一人ベッドに寝かせていった