第1章 平穏
ハルモニアっ!
バンッと音をたてて入ってきた声の主を確認するためそちらへ顔を向けると、ムスリとした表情のテンマが立っており、その後ろにはやはりと言おうかアローンが苦笑いともとれる笑みを浮かべて立っていた。
ああまたか。とハルモニアが半ば呆れながらも彼らに何があったのかと問えば、待ってましたとばかりにテンマが口を開いた。
「ハルモニア!アローンのやつ、虐められてた仔犬を助けるためだって言って、苦労してまで買った顔料を渡そうとしたんだぜ!?」
ま、虐めてた奴らはこの俺がやっつけてやったけどな!と誇らしげに胸を張るテンマ。
「テンマ、だから暴力は駄目だってば」
そんな彼にすかさず口を挟むアローンの声を聞きながら、ハルモニアは想像通りの内容に、思わず苦笑をもらす。この二人はやはり仲がいいと思いながらハルモニアは二人の前にしゃがみこんだ。
「本当に?大変だったね、アローン」
「おい!何でアローンだけなんだよ。そんな言い方じゃ、まるで俺がアローンに迷惑かけたみてーじゃねーか!」
「まぁまぁ、落ち着きなよテンマ」
もともとムッとしていた表情をますますむくれさせ騒ぎ立てるテンマをアローンがいさめる。
ハルモニアは想像通りのテンマの反応に小さく笑みをこぼしてから不貞腐れたようにそっぽを向いたテンマの頭に手をおいてクシャリとなでた。
「うわっ、なんだよいきなり」
「分かってる。テンマも、アローンを守ってくれたんでしょ?」
ありがとうと言えば今までの不機嫌顔はどこへやら、とたんに満面の笑顔で誇らしげにするテンマに、アローンと顔を見合わせて笑う。
「そういえば、アローンは顔料を買ったの?」
ふと疑問を溢したハルモニアにアローンは、言ってなかったかなと言いながらその顔料の入った小さな瓶を見せてくれた。
「実は僕、天使の絵を描いているんですけど、」
「ハルモニアもアローンが絵うまいの知ってるだろ?こいつ、教会でおっきな天使の絵を描いてんだぜ。」
「テンマ……」
スッゲーんだぜ?と、アローンの話を遮ってまで、まるで自分ことのように誇らしげに話すテンマに彼は照れたようにはにかむ。
「そ、それで、その絵に使いたくて……」
「そうなの?見てみたいけれど……、アローン!」
突然の大声に肩をすくませるアローンの頭に手をやると、彼は痛そうに身をよじった。
