第2章 胎動
「っ!アローン!!…テンマ、アローンはどうしたの?」
「わかんねぇ…森への道で倒れてたんだ」
「……熱」
アローンが横になるベッドに近づいて額に手をあててみると、濡らしたタオルのおかげか冷えてはいたが、熱があるのは伝わってくる
ふと、ギュッと服の裾が握られた感覚がしてそこを見ると、マリアが服を握っていた
心配そうにうつむく彼女の頭を撫でる
その時
「……う…ん、」
アローンが少し呻いてうっすらと目を開けた
「アローン!!」
皆でアローンをのぞきこむと、彼は段々と意識がはっきりしてきたのか焦点があってくる
そして数度瞬きをすると、突然顔を真っ赤にさせた
「?どうしたんだよ、アローン」
「あ、…服、が……」
テンマが首をかしげながら尋ね、マリアとハルモニアも首をかしげると、彼は顔をそらしたまま蚊のなくような声でそう呟いた
服?と、各々が自らの服を見下ろしたが、特にこれといったかわりなどない
……ハルモニア以外は
「ああ!!…忘れてた…ごめんなさいアローン、すぐ着替えてくるから」
そう言ってハルモニアは管理人部屋に駆けこんでいった
べチャリと重い服を脱いで新しい服に着替え終えた時、突然「触るなっ」というアローンの怒鳴り声が聞こえて来た
一体何があったのかと急いで寝室まで戻ると、何かを守るように抱え込んだアローンが、テンマに何かを言ったようだった
雷鳴と重なって内容は聞き取れなかったが、その時のアローンがなんだか別人のように思えたハルモニアの背にゾクリと嫌な感覚がよぎった時、突然扉が開き、アンナとカロが入ってきた
「皆、大変!川が増水して!町の人たちが丘の上の門を閉めたの!」
「何だって!?くそっ、町のやつら、自分達が助かりたいからって俺達のこと何だと思ってやがるんだ!」
話についていけなかったハルモニアも、ここまでくると大体の内容を飲み込むことができた
つまり、川の増水で濁流に呑み込まれることを恐れた町はそれを防ぐために門を閉めたのだろう
当然、そのつけはこちらにまわってくる
「僕が行くよ。」
怒るテンマを遮ったのはアローンの声だった
「僕が行って、門を開けてもらうように説得してくるよ。だって、根っからの悪人なんて…いないんだから」
体調も良くないだろうにそう言って苦笑するアローンに、口出しできないはずもなかった
