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それでも世界は美しい

第2章 胎動


教会にはいったヒュプノスは、おそらく此処の神父であろう人物を視界に捉え、そちらへと近寄った。

「こんにちは。私は森の大聖堂で神父をさせていただいている者ですが。此方に素晴らしい天使の絵を描く少年がいると伺いましてね……是非とも拝見させて頂きたく参上いたしました。よろしければ拝見させて頂いても……?」

長い口上を述べたヒュプノスにこの教会の神父は少し驚いたような表情を浮かべた直後に笑顔で一つ頷いた。

「森の大聖堂から……?これはこれは、遠路はるばるご苦労さまでございます。勿論よろしいですとも。今なら少年にも会えましょう。さ、此方に……」

そう言って案内するように歩きだした神父の少しあとを追ってヒュプノスも歩き出す。
(今なら少年にも会える……?当然だ。それが目的なのだから)
心中でほくそ笑みながら歩く彼の視界が金髪の少年の後ろ姿をとらえ、ヒュプノスの口角があがった。

「噂以上の腕前だな。まるで今にも動き出しそうだ……」

その声に反応して振り向いたアローンに神父がヒュプノスを紹介する。
「アローン君。こちら、森の大聖堂からいらした神父様だ。君の絵の評判を聞き届けて、はるばる見に来てくださったんだよ」
「……どうも」

「君は……いつも我が森の大聖堂にあるという、聖人の絵を見に来てくれている子だね……?」

そう言って微笑む金髪の神父をみてアローンは少し疑問を感じた。果たして森の大聖堂にこのような人物がいただろうか……と。
しかしその疑問は、近づいてきた神父が発した言葉によって解消した。
自分が毎度のように訪れている事をして知っているのだから、きっと自分が見たことがなかっただけなのだろう、と。

「はい」

神父の言葉に肯定の意をしめして、アローンは自身が求めてやまない聖人の絵に思いをはせる。

「その絵は、あまりの美しさに見たものは誰もが涙を流すと言います……。どんな罪人も、その絵を見ると涙を流して己の罪を悔やむと。その絵を見るのが、僕にとって…最大の、夢なんです」

「クス、罪人が涙を……ねぇ?」
「、え?」

どこか意味深な言葉が神父から放たれたことに驚くアローンであったが、その真意を問う前に、先にその本人から別の質問が投げ掛けられたことでうやむやになってしまった。


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