第2章 胎動
昼前の今は、人が最も多い時間帯だ。
人混みとはいってもうまく人の間をぬえば十分に走れる。ハルモニアはそうして道を急いでいた。
ゾクッ
「、え………っ!!」
なんの前触れもなく突如背中にはしった感覚に小さく疑問の声をあげたハルモニアは、そのせいか直後足をもつれさせてしまった。
何が起きたのか理解できない内の出来事に声をあげることもなく転んだハルモニアは、膝にはしる鈍い痛みに、自らが転んだという事実を理解する。
立ち上がらなければ、と立ち上がろうとしたが痛みが酷く、立ち上がれずにいる彼女の目の前にスッと手が伸ばされた。
「大丈夫ですか?」
聞こえてきた声に顔をあげれば、一人の女性がしゃがみこんで手を差し出していた。
「お店の前で急に転ぶからビックリしました」
「え?お店……?」
「はい」
目の前の女性の視線の方へ顔を向けると、言葉の通り花屋があった。
どうやら道路の端に出てしまっていたらしい。端であるせいか、雑踏はない。
「立てますか?」
「あ、はい。……っ痛、」
女性に尋ねられたことで再び立とうとするも、おかしな打ち方をしてしまったのかしっかりと立つことは出来なかった。
「!大変……と、とりあえず家で休んでください!」
それは悪いと断ろうとするも、今だ上手く使えない右足のせいで手を引かれるまま彼女の店内にお邪魔することになってしまったのだった。
「あの、お店は……」
「母がいるので。大丈夫だと思います。……はい、これで少し冷やせば少しは良くなると思うんですけど……」
そう言って渡されたのは水に浸され冷たくなったタオル。
「あ、ありがとうございます……」
そっと患部にあてるとヒヤリとした感覚がはしり目を細める。
「なんか、すいません……」
目の前で転ぶという醜態をさらしたどころか、手当てまで施してもらったことに、恥ずかしさと申し訳のなさを感じてハルモニアはうつむいた。
「そんな……私がしたくてやったことですから。」
気にしないでください。と彼女は続けた。
それにしても……とハルモニアはそもそも転ぶに至った原因である謎の感覚に思いをはせる。
気のせいだと言ってしまえばそれまでであるが、それでは済まないほどにあの感覚は鮮明なものだった。
そう。思わず声をあげてしまったほどに。
そんな思考は、家主の女性が声をかけるまで続いた。
