第1章 セフン
それからというもの、セフンに会うたびに心が乱された。
元彼のことでヤキモキするよりも、セフンの姿を見つけることに神経をすり減らした。
顔を合わせたくなかった。
何歳も離れているのに、自分の大人気なさに嫌気が差す。
そして今も、こうして彼を避けて早足で歩いている自分が情けない。
彼の足音が近づいてきて、ついに腕を掴まれた。
こうされたら、もうどうなるかわからない。
「ヌナ…………」
「セフン…もうやめて」
「好きなんです」
「一度断ったら納得してよ」
セフンの手を振りほどく。
「元カレの事、ふっきれてないって言ったでしょ」
思わずうつむいてしまう。
その彼は、今どこでなにをしているんだろう。
「ヌナ…僕の目みて」
うつむいたまま、セフンを見上げることが出来ない。
私はどうして、目を見てごめんなさいと言えないんだろう。
「ヌナが淋しいの、僕知ってますから。」
私の脱力した両腕を掴んで、彼は言った。
「僕、忙しい時もあるし。てか結構忙しいんだけど……いつもヌナのこと好きでいる。毎日電話もする。ヌナが不安になって何度も携帯みなくてもいいように、たくさん愛してあげる。絶対に心配させないから」
ほら、また見透かされてた。
もうそれ以上言わないで。
なんとか均衡を保っていた私の心が、もう倒れそう。
「子供にしか見えないってば」
最後の強がりを言った。
彼は私なんかより断然大人だ。
「ガキかもしれないけど、僕……ヌナのことは誰よりも好きだから」
もう何も言えなかった。
「正直になって、ヌナ」
「…………」
ふわり、と彼の長い腕が私を抱きしめた。
その優しさから、もう逃げられない。
「大丈夫……#NAME#はもう、僕が好きだから」
「セフン…………わたし…」
「私………………」
目を見なければ。
「あなたを好きになってもいいのかな?」
セフンの優しい声が私を包んだ。
「もちろん。僕がヌナを世界一愛してあげる」
心の中で、何がが壊れる音がした。
強がりと悲しみと不安で塗り固められた感情が、消えてゆく音のようだった。