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薄桜鬼 蓮ノ花嫁

第40章 旗



「私にとって、この世界は不思議で満ち溢れています。確かに恐ろしいこともあります、悲しい現実もあります。目を逸らしたくなるような出来事も、多く存在します。自分ではどうしようもない、変えられない何かに無力さを覚えることもありますよ」


 無力感は、常に志摩子の中にあったもの。戦う術を持たない自分、誰かに守られながらでなければ今日まで生き残ることは出来なかったかもしれないという思い。けれど、そんな今を知ったからこそ初めて知った感情がある。誰かを、他人を想う気持ち、他人を守りたいという心。

 初めて自分の弱さを知った、知った上でそれを受け止めた。


「でもですよ、今までの世界と自分がいたからこそ私は……今の私になれたのです。蓮水の箱庭の中では、けして理解することも知ることも出来なかったものが全て此処に余すことなくあります。世界を嘆くのではなく、嘆くのなら弱い自分に嘆くのです。そして嘆くだけではなく、変えていける自分になれるように、強くなれるように努力するのです。結果はどうであれ、その過程は必ず己の血となり肉となる」


 こんな世界だからこそ、嘆くだけで終わるな。


「それでも私は、この世界を……愛します。大切な人達と出会えた、この世界を」


 この世界だからこそ、出会えたということ。今でなければいけなかったということ。何も全ての出来事に対して、真正面から立ち向かわなければいけないわけではない。他人のせいにするのは楽だ、けれどそれだけでは何かを変えることは出来ない。

 変えたければまず自分から変わるのだ。どうしようもない自分を、無力な自分を、受け入れて。

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