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薄桜鬼 蓮ノ花嫁

第40章 旗



「人の世が、ボク達蓮水家を狂わせたんだ!! こんな時代でなければ、こんな世界でなければ……ボクも姉様も、もっと上手く生きていけたんだ!」

「それがどうした……っ、あんたがそうなったのも志摩子が今此処にいるのも、蓮水の何かを背負わされているのも、全ては時代のせい人のせい、自分ではない誰かのせいだと言うのか!」

「そうだよっ!! もっといい世界だったなら、雪村の家も存続出来たんじゃないの!? そうは思わないの!? 雪村千鶴っ!!」

「……っ」


 突然名を呼ばれ、千鶴はびくりと肩を震わせる。ある意味、そうなのかもしれないと思ってしまう自分に気付く。天の言葉にも、一理ある。言ってしまえばそうだ、こんな世界でなければ人間が鬼を利用しようなどと思わなければ、思い通りにいかないからと人が鬼を襲おうなどとしなければ。

 千鶴の傍らにいた土方が、そっと千鶴の肩をぽんっと叩いた。


「餓鬼が偉そうに御託並べてんじゃねぇよっ。あの時こうだったらとか、こういう世界だったらってのは今の自分だから言えることだ! その時の自分は、それが最善で精一杯なもんだ。全部自分以外の何かのせいにしてんじゃねぇよ!!」


 天が不愉快そうに顔を歪めた。怒りを露わにしながら、それを薙刀に込める。だが斎藤も押し負けたりはしない。けして、屈したりはしないと証明するかのように。


「姉様はこの世をどう思っているんですか!? 姉様だって、この時代に翻弄されている者の一人でしょ!?」

「私は……」


 刃が交わる鉄の音が響く。びりびりと天と斎藤の気迫が志摩子の身にも、降りかかっていく。それに負けないように、ぎゅっと手を握り締めて顔を上げた。戦いの最中、志摩子の瞳と天の瞳が重なった気がする。

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