第36章 紅
「やめて――ッ!!」
志摩子は必死に足を動かし、沖田の元へと走る。感情のない表情で、栄の振り上げられた刃は沖田目がけて下ろされる。
だが、間一髪滑り込んだ志摩子の身体が沖田を庇い、刃は寸止めされた。ぎゅっと沖田を庇う志摩子に、栄は大きな溜息をついた。
「人間を庇うことに意味などない。お前もいい年頃の娘だ、そろそろ鬼と人間がけして相容れないことを知れ。護身鬼は最早、俺だけとなった。天は使える奴だと思っていたのだがな……」
「やはり、栄兄様が天にこのようなことを……っ!?」
「そうだ。あれは一番護身鬼に向いていたからな……志摩子、知っていたか? 天はな」
栄がそこまで言葉を紡いだと同時に、見上げた志摩子の視界に何かが通り過ぎた。そして、視界を横切ったものは栄の肩へと突き刺さっていた。
その物体は、薙刀だった。
「……そっか。栄兄が、ボクを……ボクを護身鬼にしたんだね。地下牢で、兄さんに呼ばれて……ああ、全部思い出した」
ゆらりと血に濡れた天が、起き上る。
「嘘、でしょ……?」
志摩子は沖田を庇った体制のまま、天へと視線を向けた。確かに心臓を貫いたはずなのに天の傷は、完全に塞がっていた。
「護身鬼は人間には殺せない。同じ鬼でなければ、殺せないんだよ、姉様」
くくっと笑う天に、志摩子は恐怖を覚えた。自分には彼らを殺す勇気もなければ、力もない。ましてや傍にいる新選組の中に鬼はいない。羅刹である沖田でさえ、天を殺せなかったということは紛い物では駄目なのだろう。