第36章 紅
「生きていたか、天」
「ボクが、なんだって? 兄様……ッ!!」
鬼同士の戦いが、勃発する。見たこともない鬼同士の真剣勝負に、志摩子はただ目を見開いて硬直するしかなかった。
「……んっ、志摩子ちゃん……?」
「総司様! よかった……生きてらしたのですね。傷は?」
「まだ治癒には少しかかるけど、たぶん大丈夫。人間ならとっくに死んでたね」
「そんな嫌なこと、仰らないで下さい。肩を貸します、この隙に場を離れましょう」
「そうだね」
沖田を支えながら、志摩子は静かにその場を離れていく。幸運なことに、戦っている二人は志摩子達に気付かぬまま嬉しそうに血に濡れていた。その様はやはり、鬼だった。嬉々として戦いを楽しみ、血に濡れることを何とも思わない。化け物のようだった。
油断は出来ないが、ゆっくりと出来るだけ生い茂る草木の中に入り、身を隠しながら歩く。息を荒げる沖田が心配ではあるが、今は気遣っている余裕もない。
「……――! あれは」
進行方向に、見たことのある兵士がふらふらと徘徊していた。あれは、羅刹隊だ。けれど見慣れない洋装をしているため、敵か味方かもわからない。それに羅刹ということは、ある意味ただの化け物と同じ。姿を晒すわけにもいかない。
「どうすれば……」
「みぃつけた」
志摩子が勢いよく振り返ると、その人物は沖田を退かすと志摩子へと手を伸ばし、首を締め上げた。
「……ッ、くるし……っ!」
「探したよ。まさかこんなところに逃げ延びてるなんてね、通りで見つからないわけだ」
「南雲……っ、薫……!」
「さぁて、大人しく俺についてきてもらおうかな」
がっと腹を殴られ、志摩子の視界が暗転する。
彼女の世界は、そこでぷつりと閉じられた。