第36章 紅
「すみません、みっともないところばかり見せてしまって」
「別に構わないよ。さあ、そろそろ戻ろうか。えっと、確か山崎君もいるんでしょ? 久しぶりに顔を見せて、驚かせてあげないとね」
「そうですね……」
沖田が数歩先に歩み始める。志摩子もまた、彼に着いて行くように立ち上がった……のだが。
彼女の視界は、突如赤に染まる。
舞い散る赤、椿のような赤。崩れ落ちる沖田の姿に、志摩子は目を見開いた。
「此処にいたのか、志摩子」
「……栄兄様ッ!!!」
志摩子はいつもと違い、怖い程に怒りの表情を露わにする。沖田へと駆け寄ろうとするが、音もなく現れた栄の手に刀が握られており、すぐに駆け寄ることが出来ない。
「この男が志摩子をたぶらかせているのか? ああ、安心しろ。運が良ければ死んではいないだろう。天を殺したのは……この男か? 志摩子」
「……栄兄様にお応えすることは、御座いません」
「そうか」
栄の視線は、天へと向けられた。動かない彼に、やはり死んでいるのだろうと判断したのか、血だまり転がる沖田の身体を栄は蹴った。
「……! やめて下さい栄兄様!! 総司様に、酷いことをなさらないで下さいっ」
「こいつはお前のなんだ?」
「……大切な仲間です!」
「仲間、そうか仲間か。ならば兄と天秤にかけた時、大切なのは俺であろう? 何故兄を目の前にして、仲間を気遣う? お前にとって仲間より大切なのは、家族のはずだろう? 一族に刃向うのか、志摩子」
「私にとって、確かに兄様は大切な方です。でも天秤にかけられないほどに、私にとって仲間というのもとても大切な存在なのです! 比べられるものではありませんっ」
「だから俺ではなく、仲間を選ぶと? 愚かだな……志摩子」
沖田に止めを刺さんとするかのように、栄が刀を振り上げた。