第36章 紅
「志摩子ちゃん……」
「あ……えっと、これは、その、違うのです! 悲しくて泣いているのではなく……その……」
「うん……平気。僕は何も気にしないから」
沖田はゆっくり志摩子の元へと歩み寄ると、しゃがみこんでそのまま志摩子を抱きしめた。沖田の表情はとても穏やかで、けれど何処か困った笑みを浮かべていた。
「自分の家族が死んだんだ。別にどこもおかしくないでしょ」
「……はいッ」
「ごめんね。僕には本当の意味で、君を笑顔にしてあげられないらしい」
「……そんな、こと……ッ」
「まったく、君を一人残して土方さんも一君も何処にいるわけ?」
「……お二人には、お二人の役目があるのです……仕方有りません」
「君ってそんなに聞き分けのいい子になれるわけ? 会いたくないの? 皆に」
「……」
志摩子の脳裏に、皆と過ごした思い出や笑顔、時に見せる怒りや悲しみ。全てがまだ、思い出せる。蘇る思い出に、胸がぎゅっと切なくなる。
「会いたい……です。私は……私は一様に、会いたいです……っ」
志摩子の言葉を聞いた沖田は、そっと目を伏せただ志摩子の背を安心させるように撫でていた。彼女が望んでいる相手は、自分ではないのだと。そう思うだけで彼に返すべき言葉は出てこなかった。
――ずるいな、一君は。
心の中で沖田はそう呟きながら、志摩子が泣き止むのを待った。志摩子が沖田の肩を押したのを合図にするように、沖田は彼女から離れた。