第36章 紅
「あのさ、自分がこうなったのは誰かのせいだとか、お前がこうしなければとかそういうの僕は大嫌いだなぁ」
「お兄さんにボクの痛みはわからないよっ!」
「うん、わかりっこないよ」
沖田は天を薙ぎ払い、天が大きく態勢を崩す。志摩子との会話のせいで、いつもより動きが鈍っているようだ。
「誰かを言い訳に使えば楽だよね! でもね、いくら言い訳を並べたって過去は変えられないんだ」
天が地へ転んだと同時に、沖田は躊躇うことなく天の心臓を狙い刃を振り下ろした。
「天……ッ」
微かに志摩子が彼の名を呼んだ。その時にはもう、幕は下りていた。
「がは……ッ」
「他人のせいにして生きるのは楽だよ。だけどそれじゃあ駄目なんだ。少しでも後悔したくなかったら、自分で全てを選び取ってほんの少しでもいい。後悔しなくて済む生き方を選ぶしかない」
「……おき……た」
「君の痛みは君だけのものだから、誰とも共有なんて出来ない。それは人も鬼も、同じだと思うよ」
「……そう……かよっ」
「それを志摩子ちゃんに押し付けるのは、間違ってる。彼女がまったく悪くないとは言わないけど、君をそうしたのは志摩子ちゃんじゃないはずだ。誰が、君に護身鬼になるように仕立て上げたのかな? よく、思い出してごらんよ」
「……ボクを……護身鬼にした、奴……」
「そう。君が憎むべき相手は、その人だよ」
沖田は一度刀を抜くと「冥土の土産だ」と小さく呟いて、もう一度天の心臓を貫いた。
ぴくりとも動かなくなった天を見て、沖田はようやく刀を引き抜いた。血を払い、鞘へと刀をおさめる。志摩子の方へと沖田が視線をやれば、その場に座り込んで声も上げずに泣いていた。